アレルゲン免疫療法

今回はアレルギー治療の紹介です。アレルゲン免疫療法は、アレルギーの原因物質(アレルゲン)を少しずつ体内に吸収させることで、 アレルギー反応を弱めていく治療法です。実は100年以上前から経験的に行なわれていた歴史があり、 最近テレビなどで話題となる食物アレルギーに対する治療としても知られています。日本では、漆アレルギーを起こしにくくするために、 漆器職人の親方が弟子の舌の裏側に少量の漆を置き、少しずつ量を増やしていくことを慣習的に行なっていたそうです。 以前は減感作療法、脱感作療法と呼ばれていましたが、数年前から「アレルゲン免疫療法」という名前に統一されました。 これまでの花粉症、アレルギー性鼻炎の治療は、マスクやゴーグルの着用などの予防医療や、抗アレルギー薬や点鼻薬などで症状を緩和する対症療法が主体でしたが、 このアレルゲン免疫療法は根本的な治療法の一つです。

アレルゲン免疫療法には、注射による皮下免疫療法と、舌の裏側に薬剤を置く舌下免疫療法の2種類があります。 どちらも一長一短がありますが、すでに欧州では後者がアレルギー性鼻炎の標準的な治療として行われ、 本邦ではダニあるいはスギに対するアレルギー性鼻炎の患者さんにのみですが保険適応が認められることになりました。

アレルゲン免疫療法は、少量のアレルギーを引き起こす物質を投与するため、当然ながらアレルギー反応が起こる可能性があります。 場合によっては、アナフィラキシーという命に関わる重い副作用が現れることもあります。また治療期間は3年〜5年と長期治療が標準です。 治療効果は、全く症状がなくなる人が20〜30%、症状軽減が50〜60%と言われており、両者を合わせて約80%の人に効果が得られます。 その反面、残念ながら残りの20%の人には効果が得られません。また効果が出るまでは従来のアレルギー治療も必要です。 アレルギーは多彩な原因から発症するため、この治療を受けた全員が完全に治癒するわけではなく、治療後の再燃のリスクもあります。 患者さん一人一人がしっかり理解した上で治療をしていくことが大切です。

全てのアレルギー患者さんに勧めることができる治療法ではありませんが、気管支喘息や慢性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、 北海道ならではのシラカンバアレルギーなどにも、近い将来に応用できる日が来ることを期待しています。





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